『企業買収に潜む“詐欺師”』
2024年10月4日に放送された、テレビ東京「ガイアの夜明け」のタイトルです。
私もこの番組を見ていました。
番組で取り上げられていたのは、M&Aで会社を譲渡した後、
売り手側の経営者が思わぬトラブルに巻き込まれていく事例。
会社を次につなぐための選択肢であるはずのM&Aで、こんなことが起こるのか。
それ以来、M&Aは気になるテーマのひとつになっています。
M&Aでは、労務や法務、財務・会計など、さまざまな面から会社を見ていきます。
中でも、M&Aをめぐる詐欺やトラブルを考えるうえで、押さえておきたいのが財務・会計です。
そこで今回は、さまざまなM&Aの局面を見てきた中小企業診断士の渡邊賢司さんに、お話いただきました。
まずは、「この会社はいくらなのか」というところから見ていきます。
01.会社の価値は「営業利益」だけではわからない
中小企業のM&Aでは、「営業利益の3〜5年分」をひとつの目安として、会社の価値を考えることがあります。
営業利益とは、会社が本業でどのくらい利益を出しているかを表す数字で、売上から、仕入れなどの原価や、人件費・家賃などを差し引いて残ったものです。
ただ、M&Aでは、この営業利益を決算書に書かれたまま使うとは限りません。
たとえば、オーナー経営者が年間2,000万円の役員報酬を受け取っていて、M&A後は1,000万円で済むのであれば、会社に残る利益は年間1,000万円増えます。
家族への給与など、M&A後になくなる費用も同じです。反対に、新たに必要になる費用があれば、その分も考えます。
こうして、「この会社を別の人が経営したら、実際にはどのくらい利益が出るのか」を見ていくのが「修正利益」という考え方です。

こうした数字を整理して会社の価値を適切に把握することは、「自分の会社をいくらで買ってもらえるのか」にもかかわってきます。
決算書の数字だけでは見えない会社の価値を、実態に合わせて見ていくことが大切です。
02.決算書に書かれた金額=今の価値ではない
たとえば、会社が持っている土地が、決算書には3,000万円と載っていたとします。
今売れば5,000万円になるのであれば、帳簿に表れていない2,000万円の価値があります。反対に、1,000万円でしか売れないのであれば、実際の価値は帳簿より2,000万円低くなります。
保険を解約すれば、まとまった返戻金が入ることもあります。一方で、経営者の退任に伴い、役員退職金が出ていくこともあります。
こうしたものを加えたり差し引いたりしながら、資産を実際の価値に近づけていくのが「時価修正」です。

決算書に書かれている金額が、そのまま今の会社の価値になるわけではありません。
そのため、もう一段確認したいのが、
そもそも、決算書に書かれている数字は正しいのか。
ということです。
03.その売掛金や在庫、本当に大丈夫?
会社を売る側からすれば、少しでも高く評価してもらいたいものです。
そのためM&Aでは、決算書の数字が、本当に会社の実態を表しているのかも確認していきます。
たとえば、売掛金が1,000万円あっても、その中に何年も回収できていないものが含まれていれば、1,000万円の価値があるとはいえません。
在庫も、本当に存在するのか、古くなって売れないものが含まれていないかを見る必要があります。
反対に、本来支払うべきお金が、負債として載っていないこともあります。
損益計算書(PL)でも、減価償却費を計上しなければ、その分だけ利益は大きく見えます。
本来は費用になるものを資産として計上した場合も同じです。
つまり、会社を実際より良く見せようとすれば、「資産を多く見せる」「負債を少なく見せる」「利益を多く見せる」ことができてしまいます。

だからこそ、数字だけでなく、その中身まで見る必要があります。
そして次に目を向けたいのが、「買い手」です。
04.高く買ってくれる相手が、一番いい?
会社を売るなら、できるだけ高く買ってもらいたい。
ただ、高い金額を提示してくれた相手が、一番いい買い手とは限りません。
近年問題になっているのが、会社を買収した後、その会社が持っている現預金などを外部へ流出させ、会社を立ち行かなくさせるケースです。
会社にまとまった現金があっても、買収後に別の会社へ移されてしまえば、会社にはお金が残りません。
だからこそ、金額だけではなく、買い手そのものを見ることも大切です。
過去にどんな会社を買収してきたのか。買収された会社は、その後どうなったのか。そして、この会社を買った後、何をしようとしているのか。
「いくらで買ってくれるのか」だけではなく、「誰に会社を託すのか」。
そして、相手選びを間違えたとき、その影響は会社だけにとどまらないことがあります。
05.会社を売っても、保証は残る?
冒頭の「ガイアの夜明け」で取り上げられていた問題にもつながるのが、経営者の連帯保証です。
中小企業では、会社がお金を借りる際、経営者個人が連帯保証人になっていることがあります。
M&Aで株式を売れば、会社のオーナーは買い手に変わります。
でも、会社のオーナーが変わることと、連帯保証が外れることは別の話です。
きちんと解除されなければ、
会社はもう自分のものではない。でも、その会社の借入れについては保証人のまま。
という状態が残ります。
その後、買い手によって会社の資金が流出し、借入金を返せなくなれば、旧経営者に返済を求められる可能性があります。
会社を売ったはずなのに、最後に借金だけが残る。
だからこそ、売却金額や条件だけでなく、連帯保証がきちんと外れるのかまで確認しておく必要があります。
M&Aでは、労務、法務、財務・会計など、さまざまな面からリスクを見ていきます。
もちろん、そのすべてを、一人の専門家が判断できるわけではありません。
それでも、「何を見る必要があるのか」を知っているかどうかで、気づけることは変わります。
クライアントからM&Aの相談を受けたときに、「ここは少し確認した方がいいかもしれない」と気づく。自分では判断できなければ、その分野に詳しい専門家につなぐ。
専門外であっても、知っているからこそできることがあります。
今回は、M&Aをめぐる詐欺やトラブルが問題になっている今、知っておきたい会社の価値の見方と、会社を守るための視点について、ナレクロ勉強会の一部をご紹介しました。
【2026年7月のナレクロ勉強会の講師】
渡邊 賢司さん(中小企業診断士/株式会社3Rマネジメント 代表取締役)
10年以上にわたり、100社以上の中小企業の経営改善や事業再生に携わってきた中小企業診断士。借入負担の軽減から収益改善まで、数多くの会社を現場で支援してこられました。
金融機関の事情にも詳しく、税理士など専門家向けのセミナーも多数開催。その一方で、M-1グランプリにチャレンジした経験もあるほど、いろいろなことに興味津々。
豊富な実務経験を持ちながら、とても気さくで好奇心旺盛な方です。
